20050120 日本放射線安全管理学会第3回学術大会の印象記
 先に開催しました「第3回学術大会」にご参加されました実吉敬二先生(東京工業大学バイオ研究基盤支援総合センター)に、「印象記」をご執筆いただきました。 以下にご紹介させていただきます。
広報委員会


第三回学術大会印象記
東京工業大学バイオ研究基盤支援総合センター
実吉 敬二
 全国の放射線安全管理に携わっている人たちが年に一度集まる日本放射線安全管理学会学術大会が北海道大学国際交流会館において2004年12月1日から3日まで開かれた。初日は小雪の舞う寒い日であったが、お昼の受付開始前にはすでにたくさんの人たちが会場に集まっていた。
 今年で大会は3回目を迎え、発表件数も101件(口頭発表41件、ポスター発表60件)と過去最高となり、さらに2つのシンポジウムと特別講演などを合わせると122件の発表がありこれまでになく充実した大会となった。そのため発表会場も2部屋に増え、2箇所同時進行で口頭発表が行なわれた。
 シンポジウムの1番目は大会最初のプログラムとして行なわれ、「先端的放射線医療と安全管理」というテーマであった。新しい企画として高校生以上の一般の方々も参加できるように配慮され、多数の学生が学会員より熱心に?聴講していた。さらに3日目の特別企画「ライフサイエンスにおける放射線利用研究の最前線」もやはり一般公開となり多数の方々が参加していた。放射線に関する知識・情報は一般の方々にももっと知っていただきたいので、これは大変よい企画であったと思う。2つ目のシンポジウムは「BSS導入の法令改正を目前に控えて」と題して大会2日目に行なわれた。文科省の青山氏、茶山氏から法令実施に向けた最新情報のご講演があった。その後、日ごろ安全管理に携わる人たちから問題提起や討論が続き、管理者の集まった学会ならではの非常に活発で有意義なシンポジウムであった。
 そのシンポジウムの直前にあった(財)放射線影響協会の松原氏による特別講演「LNT(放射線影響がしきい値なし直線である)仮説の根拠を問う」は放射線安全管理者にとっても管理の根拠を問われる重要なご講演であった。LNT仮説で成り立っている放射線安全管理ではあるが、管理者自身が疑問視しているこの仮説に対し、「科学的議論が乏しく予防原則に逃げている」とする氏の主張は強く肯けるものであった。この問題こそ学会で取り上げるべきテーマではないかと思った。
 一般発表では放射線計測、被ばく線量評価、データ処理、安全管理、教育訓練、さらに法人化対応といった管理者にとって興味があるというより知っておくべきテーマが並んだ。放射線計測では計測器を管理者にとってより使いやすくするために改良した話題やイメージングプレートの管理への活用、被ばく線量評価ではIVRに関連した遮へいの問題、遮へいの評価法の実践的な話題など非常に参考になった。教育訓練の発表でもその効果を調べたり、新しい方法を探ったり、さらに教育心理学的な話題が出たりして学問的にさらに深められているように感じた。データ処理では汎用ソフトを利用して管理者自らがシステムを構築したり、2次元バーコードの利用、さらにネットワークセキュリティの問題への対処など、これからの管理システムの進むべき方向を示しているようであった。法人化対応では特に学生に対して法的な整備が欠如しているとのご指摘があり、管理学会として行政にもっと働きかけるべきであると言われたことには全く同感であった。
 「放射線安全管理を学問に」のスローガンで3年前に出来たばかりの学会であるが、3回の大会を経て次第にその形が見えてきたように思う。日々の管理業務をその日その日でこなしていくのみから、それを学問的視点から捉え、筋道の立った論理で紡いでいくことにより、放射線安全管理を客観的で高い視点に立って観る、そして同じ問題を抱える者同士が、ただ「お互い、大変だね」と慰め合うだけでなく(それも大事だが)、より客観的に意見を交換し、議論し、より高いレベルへ進化していく、そのような流れを作っていくのがこの学会の存在意義であると思う。その形が見えてきたことが大変うれしいし、これからもその方向に向かって学会が発展していくことを願ってやまない。