20030630 「国際免除レベルの法令への取り入れの基本的考え方」に対する意見の提出について
 文部科学省 科学技術・学術政策局 原子力安全法制準備室から平成15年5月15日付けで行われた、放射線安全規制検討会中間報告書(案)「国際免除レベルの法令への取り入れの基本的考え方について」に対する意見の募集に対して、本学会はこの募集をホームページに掲載し、同時にメーリングリストで会員各位にお知らせするとともに、意見を事務局にお寄せ下さるようお願いした。
 寄せられた意見を踏まえて、法令検討委員会において検討を行った結果、以下のとおり意見を提出しましたので、お知らせ致します。

平成15年6月16日

文部科学省 科学技術・学術政策局
原子力安全法制準備室 御中

日本放射線安全管理学会
会長  西 澤 邦 秀

放射線安全規制検討会中間報告書(案)
「国際免除レベルの法令への取り入れの基本的考え方について」
に対する意見

 標記の件について、平成15年5月付けで貴室より意見募集がありましたので、本学会法令検討委員会において検討を行った結果別紙のとおり意見を提出いたします。
 提案等が、法改正に反映されることを願うものです。

日本放射線安全管理学会法令検討委員会
委員長       西澤邦秀(名古屋大学)
委員    宇田達彦(核融合科学研究所)
     川瀬弘二(放射線影響協会)
  西澤かな枝(放射線医学総合研究所)
  森嶋彌重(近畿大学)



「国際免除レベルの法令への取り入れの基本的考え方について」に対する意見

目 次

[1] 総論
[2] 中間報告書に対する意見

第1章 国際免除レベルの法令への取り入れ
  1. 国際免除レベルの法令への取り入れの基本方針

第2章 国際免除レベル取り入れ後の規制
  1. 国際免除レベル取り入れ後の密封線源の規制
  2. 国際免除レベル取り入れ後の非密封線源の規制

第3章 国際免除レベル取り入れに関する事項
  1. 放射線取扱主任者制度
  2. 放射線障害防止法に基づく検査
  3. 国以外の機関が実施する業務
  4. 移動使用の規制
  5.  医療分野における規制
  6. 放射線発生装置の新たな管理のあり方
  7. 放射性個体廃棄物の埋設処分
  8. 新規制の遡及と国民への広報





「国際免除レベルの法令への取り入れの基本的考え方について」に対する意見

[1] 総論
 平成14年9月に行われた「放射線安全規制のあり方についての意見、要望等」の募集において、日本放射線安全管理学会は、我国の放射線安全管理の現状を分析し、20項目の意見と要望を行った。その中で、放射線安全管理の現場において長年の間大きな問題であった医師等の放射線取扱主任者の特例を廃止すること、あるいは主任者の資質の維持、向上を計るための再教育の実施、その他の提案を行った。しかしながら、放射線取扱主任者の特例の廃止等は、既得権を有する立場の者からの強い抵抗が予想され、実現には困難を伴い、長期間を要するものと予想された。
 中間報告書(案)は、国際免除レベルの法令への取り入れに当っての基本的な考え方を述べると共に関連する事項についても検討を加えている。
国際免除レベルの法令への取り入れに関する事項は、検討会の所期の目的に沿って当然行うべきものであって、職務を粛粛と遂行したものと言えよう。
 一方、関連する事項においては、国際免除レベルの法令への取り入れの検討に併せて、放射線取扱主任者の特例の廃止あるいは主任者の教育の充実、医療における二重規制の改善等の困難な問題に真正面から取り組み、建設的な結論を出している。我国の放射線管理の長い歴史の中でも画期的な改革に繋がると言えよう。中間報告書が、我国における放射線安全管理上の長年の大きな問題に果敢に挑戦している姿勢は高く評価出来る。これらの提言が実現をされることを望むものである。
 しかしながら、本学会は、先に述べた意見と要望において、主任者の資質の維持、向上を計るための教育は、行政担当者の資質の向上のための教育及び変更申請等の事務処理の迅速化と一体化して実施すべきであると提案した。中間報告は、行政側に係るこれらの問題に全く触れていない。放射線安全管理は、放射線の利用によって社会不安を生じさせたり、放射線使用への社会の信用を失墜するような事態を招くことなく、教育、研究、産業、医療における放射線利用を促進させるためにある。そのためには、放射線取扱主任者と行政とが車の両輪となって我国の放射線安全管理を推進しなければならない。このような観点から、中間報告書は見直されるべきであろう。

[2] 中間報告書に対する意見
第1章 国際免除レベルの法令への取り入れ
1. 国際免除レベルの法令への取り入れの基本方針
 国際基本安全基準(BSS)の295核種を基準として、英国放射線防護庁(NRPB)の765核種について、放射能と放射能濃度に基づいて、免除レベルを法令へ取り入れる目的と必要性は妥当である。
放射線以外の多様な分野においても、グローバルスタンダードの確立の必要性が叫ばれている今日、国際的なハーモナイゼイション、非関税障壁の問題等を視野に入れて国際基準と国内基準の整合性をはかることは、必然的な流れである。
 ICRPに始まる国際免除レベルの検討の過程において、レベル導出に本質的な役割を果たしている実効線量10μSv等の数値設定及び被ばく計算に必要とされる被ばくシナリオの設計という基本概念の確立と評価にBSSあるいはNRPBは多大な経費と研究者を投入しているはずである。今回の国際免除レベル取り入れに当って、我国は、単にBSSおよびNRPBの数値確認作業に終始したとの印象を受けることは、極めて残念である。放射線防護基準の輸入一辺倒から脱却し、我国の放射線防護研究の水準を向上させ国際貢献を果たすためにも検討会においては、中間報告書に我国の放射線防護研究の振興策についても盛り込むことを検討されたい。

第2章 国際免除レベル取り入れ後の規制
1. 国際免除レベル取り入れ後の密封線源の規制
 基本的な枠組みにおいて、「濃度、数量ともに大きく、放射線の影響の可能性も大きい線源については、施設規制、行為規制及び廃止等規制をともに厳格に適用することが必要であり、濃度、数量ともに小さく、相対的に放射線の影響の可能性も小さいものについては、施設規制または行為規制を適宜合理化することができると考えられる。」としているが、濃度、数量ともに小さい場合における廃止等規制に言及していない。(3)許可の規制及び(4)届出の規制の項では、廃棄についても触れているが、濃度、数量ともに小さい線源に対しても適用されるとは明記されていない。
濃度、数量ともに小さい線源の廃棄に関する考え方を明記されたい。

2. 国際免除レベル取り入れ後の非密封線源の規制
 1の最初の文において「数量、濃度ともに国際免除レベルを導入するが、非密封線源に対する上述の現行の規制の仕組みは、現在までの40年近くに至る実績に照らし、基本的には変更する必要はないと考えられる。」としている。続く第2文を読むと、その意図が理解されるが、最初の文は、前半と後半とでは、矛盾して理解されかねない。後半では、「現行の規制の仕組みは、現在までの40年近くに至る実績に照らし、基本的には変更する必要はない」と現状を肯定している。しかしながら、現行の規制の仕組みとは、すなわち、数量を四群に分ける方式である。濃度と数量を基本に規制することは同じであるが、核種別に濃度と数量を適用することは、現状の仕組みを変更することである。
群別規制を廃止すると明記すべきである。

第3章 国際免除レベル取り入れに関する事項
1. 放射線取扱主任者制度
 放射線取扱主任者制度の歴史的な経緯と現状認識は的確になされており、医療機関における放射線取扱主任者の選任について、新たな提案がなされている。
 総論において述べたように医師、歯科医師、薬剤師の放射線取扱主任者の特例の廃止に踏み込んだ姿勢は評価に値する。しかしながら新たに第1種(医療用)を設けるのは、適切ではない。文面からは、医師、歯科医師、薬剤師、診療放射線技師に対しては、人体影響の試験課目を免除して、この試験合格者を第1種(医療用)とすることが読み取れる。医師、歯科医師、薬剤師、診療放射線技師は、放射線が人体に対して与える影響に対する十分な知識を有しているとの前提があると推察される。全ての医師、歯科医師、薬剤師、診療放射線技師が、放射線が人体に対して与える影響に対する十分な知識を有しているとは考えられない。仮に、医師、歯科医師、薬剤師、診療放射線技師が当該事項に対して十分な知識有しているのであれば、容易に当該事項の試験に合格出来るはずである。曖昧な推論で例外を作るべきではない。第1種放射線取扱主任者は一本化すべきでり、第1種(医療用)の制度は設けるべきではない。
 第3種放射線取扱主任者は、移動使用における安全を確保しつつ利用を促進する上で、必要な資格であると思われる。また、過度に高度な試験を課すこと無く、講習を受講することによって資格を取得することとしたことも適切な判断である。
 放射線取扱主任者の技術的能力の維持を目的とする、放射線取扱主任者の再講習・再教育は、本学会の主張したところであり、賛意を表する。放射線取扱主任者の再講習・再教育に関しては、使用者の責任叉は義務を同時に明確にしておく必要がある。
 但し、総論で述べたように、規制担当行政官の資質の維持、向上を計るための教育を同時に実施することが、必要不可欠である。平成12年度に行われた放射線障害防止法の改正に係る申請業務が、期限の平成14年度末においても消化されずに、平成15年6月の現時点においても残存している。このことは、我国の放射線安全管理と放射線利用の促進に大きな影響を与えている。規制当局の資質の問題が顕在化していることを示している。検討委員会においては、このような現状を厳しく認識し、報告書において言及すべきである。
 なお「放射線取扱主任者の責任と罰則の明確化についても検討することが必要である。」との記述は、これまでの「主任者は誠実に職務を遂行すべきである」というような精神論から脱却する観点からも重要な意味を持っている。是非検討を進めるべきである。同時に使用者及び行政の責任も明確化すべきである。

2. 放射線障害防止法に基づく検査
 定期検査の内容に行為の基準の追加をしたことは、立入検査の頻度が著しく低い現状を考慮すると妥当な判断と言える。
 但し、施設検査および定期検査において検査に費やす時間、内容等を考慮すると検査に支払う経費が、社会常識に照らし合わせて異常に高額である点は改める必要がある。
 また、立入検査において判断基準が明確になっていないために検査官ごとに指導内容異なることがしばしば管理の現場から強い批判がある。行為の基準は判断基準が曖昧になりがちである。行為の基準の検査を委任される指定法人に対して検査担当者による判断基準に差が生じないように基準を明確にするとともに基準を公開するように規制当局に指導監督を義務つけるべきである。次項も参照。

3. 国以外の機関が実施する業務
 指定法人が業務を行う場合は、国は指定法人が、委任された業務を社会の要請に答えるように実施しているか監督、指導するべきである。
 例えば、放射線取扱主任者試験合格者に対する講習は、開催頻度と時期が合格者の希望と一致していない。例年11月に試験合格者発表が行われる。多くの合格者は、3月までに講習を受講することを望んでいる。理由は、学生であれば、第1種放射線取扱主任者免状を有している場合は、直ちに主任者に選任できることから就職に有利となり、また、3月は年度末で人事異動の時期に当り免状を有している者が多い程人事が容易となるからである。しかしながら、実態は1年以上受講を待機させられる者もいる。社会の要請に指定法人が答えていないのが現状である。国は、このような実情を的確に把握し、問題を解決するように計るべきである。
 今回、新たに2つの業務を国以外の機関に委任する案となっているが、同様な問題を生じないように、あらかじめ配慮しておく必要がある。
 中間報告において、現状に対する改善案と今後に対する予防策についても、触れておく必要がある。

4. 移動使用の規制
 専ら移動使用する場合を明示的に認めること、移動使用の合理的規制の在り方を検討する等の、使用の実態にあった規制方法を検討する方向性は、確実な安全管理と利用の促進を計る上で、適切である。

5.  医療分野における規制
 「医療分野における放射線利用に対する規制について、文部科学省と厚生労働省は相互に連携を取りつつ、二重規制の改善、短半減期核種の個体廃棄物の取扱、を可能性の高い部分から取り組むべき」としている。本提言は、現在の我国の放射線規制の長年に渡って指摘され続けてきた根本的問題点に迫るものであり、賛同する。
 短半減期核種の個体廃棄物の問題は、障害防止法の規制を受ける個体廃棄物にあっても事情は同じである。この点についても言及するべきである。

6. 放射線発生装置の新たな管理のあり方
 管理区域の一時的な設定と解除、放射化物の取扱等に対する考え方は、概ね、本学会の主張に沿ったものであり、妥当である。

7. 放射性個体廃棄物の埋設処分
 この問題に関する基本的な現状分析は適切に行われており、今後の対応においては、障害防止法の整備の必要性を指摘しており妥当なものであると思われるが、本章の1?6項と比較して今後の対応については、具体生に欠けており、切り込み方が不足している感を否めない。
 技術的検討等においては、法整備の基礎をなす技術的な研究の必要性を強調すべきであり、一般社会を納得させることができる、我が国独自の放射性廃棄物処分の論理あるいは技術基準を確立し、社会へ向けて発信する必要性を指摘すべきである。

8. 新規制の遡及と国民への広報
 新規制を遡及適用すべきであるとの、提言には賛意を表する。
 遡及に当っては、十分な移行期間を設けることは当然である。遡及に当っては適用を受ける側が適切に対応しなければならないことはもちろんであるが、1. 放射線取扱主任者制度の項において述べたように行政側の対応によって混乱を生じさせないように、報告書において提言をするべきであろう。
 戦前から所持しているRa針がいまだに発見される。新届出の対象となった線源が、数年以上を経て発見される場合も十分あり得る。そのような場合には、法令違反として扱わない様な措置も必要である。