発刊によせて

  1990 年代は非密封放射性同位元素の利用が増え、全国の国立大学ではアイソトープ総合センターの設置が続きました。その後、非密封放射性同位元素の利用が減少し、全国の放射線施設の中にはその使命を終えた施設もあります。2017 年 9 月 6 日、日本学術会議より「大学等における非密封放射性同位元素使用施設の拠点化について」提言がなされ、新しい放射線施設に生まれ変わる場合もありますが、今後ますます廃止をする施設が増えてくる可能性があります。

  放射線施設の廃止は RI 規制法や関係法令に則って行わなければなりません。放射線施設が廃止されるとその施設は放射線施設ではなくなります。廃止に関して相談しようにも廃止の経験者を探すことは困難です。廃止マニュアルが必要な所以です。

  日本放射線安全管理学会は、2007 年に「放射線施設の確認手順と放射能測定マニュアル」(2007 年マニュアル)を発行しました。その後、2010 年にクリアランス制度の導入に合わせて、「放射線発生装置の使用に伴って発生する放射化物の取扱」が法令に取り入れられました。本マニュアルは、2007 年マニュアルを基に、「放射線施設廃止の確認手順と放射能測定マニュアル」改訂委員会(桝本和義委員長)で検討されてきたものであります。検討内容は日本放射線安全管理学会 6 月シンポジウムなどで随時報告頂きながら進め、RI 規制法の改正点を踏まえて、考え方、手順を見直しています。特に放射線発生装置使用施設に関して重点的に検討を加えています。

  本改訂マニュアルは、RI 規制法に係わる放射線事業者を対象としています。事業所を廃止することになってから、事前評価、計画立案、測定並びに除染作業、廃棄物引渡し、廃止措置報告書までの廃止措置の全体スキームと留意すべき事柄について網羅しています。多くの放射線施設ではすべてを自前で行うことは不可能です。一部を専門業者に依頼することもあります。そのような場合も責任をもって主体的に取り組むことが重要で、廃止措置作業の中身についても理解いただく必要があります。

  本改訂マニュアルの一部は、原子力規制庁の放射線安全規制研究戦略的推進事業に採択された「加速器施設の廃止措置に係わる放射化物の測定、評価手法の確立」(研究代表者:松村宏)の成果も取り入れています。ここに、原子力規制庁のご理解に感謝申し上げます。


2020 年 6 月
日本放射線安全管理学会会長
中 島  覚