JRSM広報
(’02.10.01)0012別紙


放射線安全規制のあり方についての意見および要望書

目     次

1.放射線安全に係わる法体系について
 1.1 エックス線のみを扱う学生の放射線防護に係わる法令の必要性
 1.2 放射線安全管理法の制定

2.放射線障害防止法に係わる事項について
 2.1 主任者の再教育制度
 2.2 低レベル固体廃棄物の規制免除レベル規定について
 2.3 放射線発生装置の定義
  2.3.1 放射線発生装置の分類基準について
  2.3.2 1MeV未満のエックス線発生装置について
 2.4 放射線発生装置停止期間中における管理区域の一時解除規定
 2.5 放射化の定義
 2.6 放射線業務従事者の共通管理について
 2.7 健康診断について
 2.8 放射線管理測定の質について
 2.9 放射線防護のための線量体系について
 2.10 異常時及び緊急時の措置について
 2.11 選任主任者に対する医師、薬剤師の特例の廃止について

3.放射線障害防止法の運用に係わる事項について
 3.1 検査関係
  3.1.1 立入検査頻度
  3.1.2 立入検査の指導内容の検査官による相違
  3.1.3 定期検査の間隔
 3.2 申請書の審査の迅速化
 3.3 申請書の審査基準の明確化と公開
 3.4 申請書の審査基準を随時変更しないこと

4.その他
   放射線安全管理関係者の資質の向上

5.付録
 5.1 測定における量の矛盾について
 5.2 個人管理の一元化方法の一例
 5.3 遮蔽計算マニュアルと異なる指導例



放射線安全規制のあり方についての意見および要望書

1.放射線安全に係わる法体系について
1.1 エックス線のみを扱う学生の放射線防護に係わる法令の必要性
<現状> 1MeV未満のエネルギーのX線を取扱う学生は、障害防止法の対象外となっているばかりでなく、学生は国家公務員でもなく労働者でもないために、人事院規則や電離則の対象とならない。従って大学等においてエックス線を扱う学生に対する放射線安全を担保するための法令が存在しない。過去において結晶解析装置の使用時に過剰な被曝が生じた例等が知られている。現状は、各大学等においてエックス線を扱う者の内学生が大部分を占めている。学生に関する被曝管理、健康管理、教育訓練等の個人管理は、各大学等の善意によって自発的に行われているが、各大学等には個人管理の法的な義務は無い。学生の放射線安全管理は関連法令間の挟間にあって欠落しており、我が国の放射線安全管理は法体系的に不備である。
<提案> 日本のみならず世界の将来を担う我が国の学生の放射線安全を担保するための法令を早急に整備すべきである。障害防止法にX線を扱う学生を含めるように改正するか、若しくは新しい法律を制定することを提案する。

1.2 放射線安全管理法の制定
<現状> 現在の放射線障害防止法が我が国における放射線安全の担保に大きく貢献して来たことは高く評価出来る。しかしながら、一方では、1MeV未満のエネルギーのX線は放射線と見なしていないこと、X線を取扱う学生を放射線業務従事者として扱わないこと、のため放射線管理の現場では管理に大きな矛盾と混乱が生じている。我が国の放射線安全管理に関する法律を体系的に整備するためには、新しい法令の制定が必要である。
<提案> 現在の放射線障害防止法における放射線、放射線発生装置の定義の変更を行うこと、あるいは第一項で述べたX線を取扱う学生を含めることは、放射線障害防止法を根本的に変更することになるので、部分的な手なおしでは、法令の構成が複雑となり、条項間に齟齬を生じる可能性がある。放射線安全管理に関わる各種法令を俯瞰的に比較勘案することによって、抜本的に法体系を組みなおし、統一のとれた法令を制定することが可能となる。現在の放射線障害防止法に欠落している放射線あるいは学生を対象として包含する体系的に整備された新しい放射線安全管理法を制定すること、及び放射線障害防止法を廃止することを提案する。

2.放射線障害防止法に係わる事項について
2.1 主任者の再教育制度
<現状> 現在では、放射線取扱主任者の資格を取得すると、生涯資格を持ち続ける。社会情勢の変化や技術の進歩あるいは法律の改訂によって、放射線管理方式、放射線の使用方法、廃棄物処理方法等は、時代とともに変わる。一旦放射線取扱主任者の資格を取得した後も、時代の流れに沿って継続的に知識をリフレッシュして行く必要がある。法的な放射線取扱主任者の再教育制度がないため、主任者の自発的な研修にまかされている。各種研修会、講習会等が開催されているが、法的な裏付けがないため、参加費用、旅費等が支給されない場合も多い。そのため、研修に参加しない者も多い。主任者のレベルを保持する制度を作る必要がある。
<提案> 選任主任者には年に1度、講習を受けるなどの再教育を義務付けることによって放射線取扱主任者資格を更新する制度を導入すること、及び新たに主任者として選任する場合は、再教育を終了している者から選任することを提案する。

2.2 低レベル固体廃棄物の規制免除レベル規定について
<現状> 現在では、一旦汚染されたものは、どんなに放射能がすくなくても放射性廃棄物として管理しなければならない。これは、無意味であるばかりでなく、経済的にも多大な損失である。そのため、研究、教育、産業、医療における放射性物質の利用を疎外している。日常的に非密封放射性同位元素使用施設から廃棄されるものばかりでなく、施設廃止に伴う廃棄物の再利用等の問題とも絡んで重要な課題である。然るべき基準に基づいて規制免除レベルの法制化を早急に行うべきである。
<提案> 規制免除レベルの法制化にあったては、検認する測定士、測定装置と方法について認定制度を作るとともに、第三者機関による検査委託制度を取り入れることを提案する。

2.3 放射線発生装置の定義
2.3.1 放射線発生装置の分類基準について
<現状> 装置表面では基準以上の放射線が外部に出ている装置であって、法律に規定される放射線発生装置に該当しない装置、または該当するか否か判断が困難な装置がある。放射線発生装置の分類は、普及している放射線装置の実態に即して適正化する必要がある。
<提案> 放射線発生装置を実態に即して分類することを提案する。

2.3.2 1 MeV未満のエックス線発生装置について
<現状> 現在の法令では、1 MeV未満のエックス線発生用電子加速器やエックス線発生装置を、規制対象から除外している。併しながら、0.95 MeVの電子加速器と1 MeVの電子加速器では、放射線安全上の要件に差はなく、非破壊検査のために稼動している前者の装置が、規制対象から除外されていることは矛盾である。放射線障害防止法制定時とは社会的、技術的環境が異なっている。放射線安全の観点から、障害防止法における電子線およびエックス線を1 MeVを超えないとする基準を見直す必要がある。
<提案> エネルギー下限基準を引き下げることを提案する。見直しにあたっては、広く意見を求め、関系法令間の整合性等について議論を尽くすものとする。

2.4 放射線発生装置停止期間中における管理区域の一時解除規定
<現状> 放射線発生装置は、運転を停止すると放射線の発生も停止する。そのため、放射線発生装置に係る放射線管理区域のうち、放射化物の生じるおそれのない区域は、運転を停止した後は、非管理区域と同じ状態となる。そのような場所での作業は、作業場所が放射線管理区域内ではあるが、被曝の“おそれ”が無い。併しながら、現在の法令下では、加速器の運転に合わせて放射線管理区域を設定・解除することは困難である。
<提案> 装置の停止中は装置の放射化もなく明らかに放射線が発生しない放射線発生装置にあっては、一定期間停止する場合は管理区域を一時的に解除できるようにすることを提案する。
放射線発生装置に係る放射線管理区域のうち、有意な放射化を生じるおそれのない区域に関しては、一定の条件、例えば、システムキーを放射線取扱主任者が保管するなどを満たした場合は、(1)一時的に放射線管理区域を解除できる、または、(2)当該区域への立ち入りの制限を緩和できる、という措置を可能とする。責任の所在明確化と制度の乱用防止のためには、申請書本文にこうした措置を適用できる区域の範囲と条件を明記し、かつ放射線障害予防規定に講じる具体的な手順を明記するものとする。

2.5 放射化の定義
<現状> 現行法令には、加速器放射化物に関する規定がなく、合理的な管理を行うためには、明確な法令基準の導入が望まれる。
<提案> 放射線発生装置において、加速粒子の種類とエネルギー等を勘案して放射化の可能性がない装置の基準を定めることを提案する。

2.6 放射線業務従事者の共通管理について
<現状> 現在法令では、放射線業務従事者の個人管理は、事業所の使用者等が事業所単位で行うことになっている。一人の放射線業務従事者が並行して複数の施設で放射線業務に従事する事例が増加している。特定の放射線業務従事者が何箇所の事業所において放射線業務に従事しているかは、本人の申告によってのみ明らかになる。申告されなかった事業所では放射線業務に従事していなかったことになる。一人の放射線業務従事者の管理情報が、複数の放射線施設で管理されるため、相互の情報連絡に不備があれば、個人の管理記録が不完全となり、過剰被曝を看過する原因となる。放射線業務従事者に所属機関がある場合とない場合があること、所属機関があっても、放射線施設がある場合とない場合がること、学術振興会の博士研究員のように雇用と人事管理とが連結していないな場合があること、その他多様な放射線業務従事者の所属形態が存在する。社会環境の変化に応じて、個人管理の考え方を事業所単位から、個人単位に変更する必要がある。
<提案> 放射線業務従事者の管理の一元化することを提案する。管理の一元化にあたっては、放射線業務従事者の多様な存在実態を十分に考慮し、将来生じ得る状況を柔軟に取り入れることができる様に法令を整備する。
参照:付録 2.個人管理の一元化方法の一例

2.7 健康診断について
<現状> 法第23条第1項の規定により健康診断が実施されているが、放射線障害を発見する手段としては医学的に意味がないとされている。放射線業務従事者の放射線安全管理に寄与しないばかりでなく、不用な健康診断の実施にあたっては、実務的に多大な労力と経費を要している。職員の定期健康診断で十分対応できる。
<提案> 法第23条第1項に規定する健康診断を廃止することを提案する。

2.8 放射線管理測定の質について
<現状> 法20条第1項には、放射線の量と放射性同位元素による汚染の状況の測定が規定されている。測定は測定者の技能に影響される面が少なくない。現在の法令は、18歳以上で精神障害者でない者であれば、測定に従事することが出来る。測定の質の確保に関しては、「トレーサブルな較正をした測定器を用いて測定すること」されているが、トレーサビリティ制度は、その測定器が較正場の中に「正しく」置かれたとき、表示された誤差範囲内の値を指示することを保証しているが、測定者の取り扱いまで保障していない。放射線管理の測定においては、測定値の精度は高くない。放射線管理測定と評価に係わる数値は、このような事情を勘案した扱いが必要である。
<提案> 放射線管理の測定における技術的な基準を明確にすると共に、告示別表第4の表記は、有効数字2桁に改めるべきである。
註:作業環境測定法では、使用室などの空気中放射能濃度は、作業環境測定士または作業環境測定機関が測定することと規定している。


2.9 放射線防護のための線量体系について
<現状> 法令の定める放射線防護のための線量体系は、不必要に複雑で現場の管理者に誤解と混乱を招いている。
<提案> 測定の較正基準に用いられる線量を、遮蔽評価などに用いられる線量と同一の、告示別表に規定された「人体数値ファントームに基づいて算出された実効線量Eap」に統一することを提案する。
参考:付録 2.測定における線量体系の矛盾について

2.10 異常時及び緊急時の措置について
<現状> 法33条等に規定された危険時の措置のうち、特に通報などの判断基準に曖昧な点がある。例えば、被曝線量が法令基準を超えていないので、あえて通報しなかった場合であっても、最近の社会情勢では情報を隠蔽したと受取られかねない。情報隠蔽に関する社会一般の考え方が極端に厳しくなりつつある状況に鑑みて、現場の管理者は不必要に過敏な反応をせざるを得ない状況にある。
<提案> 危険時の措置の客観的で明確な判断基準を策定することを提案する。

2.11 選任主任者に対する医師、薬剤師の特例の廃止について
<現状> 医療施設等においては、主任者として医師及び薬剤師を選任することを例外として認めている。この例外は、主任者制度が定められた当時の主任者の有資格者数が不足していたので、放射線および放射性同位元素を使用出来ない施設が多数に上ることが見込まれた。医療等に影響を及ぼさないために過渡的にとられた措置であったにもかかわらず、その後既得権として固定してしまったものである。主任者の有資格者が充足している今日では、もはや例外を認める理由は存在しない。放射線の知識が乏しい主任者を放置しておくことは、放射線安全管理を目的とする放射線障害防止法の精神に反するものである。
<提案> 主任者に対する医師、薬剤師の特例を廃止することを提案する。

3.放射線障害防止法の運用に係わる事項について
3.1 検査関係
3.1.1 立入検査頻度
<現状> 立入検査は放射線安全管理の実施状況を評価するために必須である。しかしながら現在立入検査は概ね5〜10年間隔で行われている。立入検査頻度が低すぎるため、検査結果の追跡調査と指導が実施されていない。検査後、事業所が廃止された場合は、検査結果が活かされないことになる。また、主要な帳簿類の保存機関は5年間となっている。例えば6年後に移動、退職等により管理担当者が交代している場合は、前回立入り時の指摘事項等の記録は破棄されているため担当者は事情を理解できないことになる。したがって立入検査に対して適切に対処出来ない。立入検査の回数を増すことによって、放射線管理上の多くの問題を解決出来るはずである。
<提案> 立入検査を3〜5年に一度実施する。立入り検査官の任命に当っては、検査内容の透明性を高める必要があり、行政経験者ばかりでなく、学識経験者、実務経験者を加えるべきである。

3.1.2 立入検査の指導内容の検査官による相違
<現状> 立入検査時の指導内容が検査官によって異なることがある。極端な場合は、全く正反対なこともある。このような状況に対して、放射線規制室としては、行政の一貫性と透明性、更には説明責任を果たすべきである。客観的な基準を設け、公開することによって、不毛な議論を繰り返すことを避けられる。そうすることによって、我が国の放射線安全管理の簡素化を計りつつ、しかも安全管理を効率的かつ厳正に実施することが可能となる。
<提案> 日本アイソトープ協会主任者部会では、立入検査問題に対処するために、専門の分科会を設けている。分科会が集約した事例をもとに、主任者部会と放射線規制室とが議論を尽し、客観的な基準に基づく立入検査を実施することを提案する。基準は文書として記録し、これらの情報は公開するものとする。なお、このような問題は社会環境の変化、管理技術水準の向上、管理担当者や行政職員の交代等に伴い常に生じ得る。従って、議論の場を定期的かつ継続的に維持することが、肝要である。

3.1.3 定期検査の間隔
<現状> 定期検査は3年に一回、原子力安全技術センターが実施することになっている。原子力安全技術センターは検査実施にあたり、連絡文において、前回実施日より、最低限一日以上前に実施することを要求している。検査間隔が短くなり、検査の都度検査が前倒しで実施されている。現在、自動車免許証の更新は、誕生日の前後一ヶ月以内であれば可能である。前倒し実施は社会通念に反する行為である。このような事例を参考に常識的な間隔で検査を実施する様に改めるべきである。
<提案> 定期検査は、3年に一回施設が許可された日付けの前後一ヶ月以内に実施することを提案する。

3.2 申請書の審査の迅速化
<現状> 申請書の審査に長時間を要している事例が多い。申請書の記載不備が理由で書き直すために要する時間は、申請側の責任であるが、申請書提出後、繰り返し請求して初めて審査が始まる事例や、審査開始から終了までに長期間を要する事例がある。余りに長時間を要するために放射線の利用を取り止める例もある。このような事例は、研究、教育、産業、医療の進展を疎外するばかりでなく、放射線の有効利用の意欲を著しく損なう。放射線に変わる方法を取ることによって、多額の経費を要する場合もあり、国家経済的な影響も大きい。特に会計年度を超える様な長期審査は行うべきでは無い。
障害防止法の改正に伴う施設能力の見直しに関わる申請期限平成15年3月が迫っている。関連申請の審査に遺漏のないように対処すべきである。
<提案> 審査官が不足しているであろうことは想像できるが、審査官の資質の向上も重要な対策である。加えて、放射線安全管理に関する知識と経験が豊富な退職した行政経験者、学識経験者、実務経験者等に業務依託する等の方策を考えるべきである。

3.3 申請書の審査基準の明確化と公開
<現状> 申請書の記載不備の中には、審査基準が曖昧であるか叉は決定していないことが原因で、審査官によって指導内容が異なる事例がある。審査基準を明確にし、公表することによって、行政側と申請者側のトラブルを避け、申請業務を迅速に処理することができる。すでに遮蔽計算に関しては、原子力安全技術センターの「放射線施設のしゃへい計算実務マニュアル2000」及びその追補事項(以下、計算マニュアル)が出版されている。申請書作成に関わる他の事項についても順次類似の同様の措置を講ずる必要がある。
<提案> 審査基準を明確にし、順次マニュアルとして出版することを提案する。

3.4 申請書の審査基準を随時変更しないこと
<現状> 前項3の原子力安全技術センターの計算マニュアルに記載されている方法で計算を行っても、異なった遮蔽計算条件を強いられる事例がある。これでは、計算マニュアルを出版した意味がない。また、この計算マニュアルの内容は放射線規制室の了解の基に作成されているはずである。安易に計算マニュアルの内容を変更すべきではない。計算方法等は研究の進展に従い変更されることはあり得るし、計算条件も社会的状況や作業実態の解明に応じて変更されることはあっても良い。しかしながら、変更時は理由を付して、変更したことを然るべき方法で公表すべきである。審査官の個人的考えで審査基準を随時変更すべきではない。
<提案> 既に公表されている審査基準を変更する場合は、あらかじめ関係団体等と協議を行った上で、変更の理由を付して公表することを提案する。

4.その他
放射線安全管理関係者の資質の向上
<現状> 放射線安全管理を担保しつつ放射線の有効利用を計り、我が国の教育、研究、産業、医療へ貢献することが放射線安全管理の使命である。そのためには、放射線管理者側と規制行政側との緊張ある協力関係が不可欠である。それには放射線管理者側と規制行政側ともに、資質の向上を計り、放射線利用と放射線安全管理の実態を俯瞰的に眺める高い見識と深い知識とを養う必要がある。管理者側については主任者の再教育制度を提案してある。行政側においても係官の教育訓練が必要不可欠である。行政側は短期間で人事異動が行われるので、特にこの点に留意すべきである。
<提案> 新任の係官には然るべき期間教育訓練を受けることを義務付けることを提案する。最低限、非密封線源の安全取扱、サーベイメータの取扱、液体シンチレーションカウンターの使用等の実習等は必要であろう。

5.付録
5.1 測定における量の矛盾について
 現在の法令では、場所の測定と被曝の測定を1 cm線量当量および70 μm線量当量で行うよう規定している。しかしながら、法令には、これらの線量に関する定義等が全く記載されていない。原子力安全技術センターから刊行されている“被ばく線量の測定・評価マニュアル2000”によると、
 1) 場所に関する1 cm線量当量は、周辺線量当量H*(10) = H’(10, 0°) であること、
 2) 場所に関する70 μm線量当量は方向性線量当量H’(0.07, 0°)であること、
 3) 被曝に関する1 cm線量当量と70 μm線量当量は、個人線量当量Hp(10)とHp(0.07)であること、
が記載されています(同書18頁)。ただし、同書に示された個人線量当量Hp(10)とHp(0.07)の数値は、ICRUが導入定義した「個人線量当量」ではなく、ICRU組織等価物質でできた大きさ30 cm×30 cm×15 cmのスラブ・ファントームに基づいて算出された個人線量当量Hp,slab(10, 0°) とHp,slab(0.07, 0°)に関するものになっている。これは、ICRUの実用線量の体系が、場所の測定に用いる測定器は周辺線量当量H*(10)または方向性線量当量H’(0.07, 0°)に対してfree airの状態で較正し、被曝の測定に用いる線量計は方向性線量当量H’(10, 0°)= Hp,sphare(10, 0°)およびH’(0.07, 0°)= Hp,sphare(0.07, 0°)またはICRUスラブ・ファントムの線量当量Hp,slab(10, 0°) およびHp,slab(0.07, 0°)に対してon phantomの状態で較正する、としていることに対応したものと推定される。しかし、2種類の1 cm線量当量を導入したために、同じ場所で測った“場所の線量”と“被曝線量”とが一致しない事態が生じ得る。
 法令では、これらの1 cm線量当量等を実効線量とみなすことになっている。場所に関する1 cm線量当量については、法令に明記されていないが、線量と線量限度との関係からそのように推定せざるを得ない。そうした“みなし”が必要になったのは、本来、仮想的な較正基準量に過ぎない周辺線量当量等を“測定の目標”としてしまった結果である。法令の1 cm線量当量等に相当する上記の実用線量は、何れもその適格性を、人体数値ファントームの実効線量と比較して検証せねばならならないものである。従って、人体数値ファントームに基づいて算出された実効線量のEAPが告示別表に与えられている以上、場所と被曝の測定に用いる線量計を、それぞれ自由空気とファントムの条件でEAPに対して較正すれば十分であり、あえてH*(10)やHp,slab(10, 0°)を使用する必要は無い。

5.2 個人管理の一元化方法の一例
 管理機関を設け、放射線業務従事者の登録と被曝その他放射線業務の従事記録を一元的に管理することも考えられる。管理機関に放射線業務従事者として登録された者は、個々の放射線施設で、施設固有の“安全取り扱い”と予防規定に関する教育訓練を受ければ、放射線業務に従事することが可能となる(手続きの簡素化)。各放射線施設は、放射線業務の従事記録と被曝測定の結果を、その者の直接の雇用者は、放射線健康診断の結果と“一年を超えない期間毎”の教育訓練の実施状況を、それぞれ管理機関に報告し記録する。こうした一元管理の仕組みが出来上がれば、同時期に複数の放射線施設で業務に従事する者や、共同利用放射線施設を短期間利用する者などの管理が合理化され、施設間の情報連絡の不備による従事者受け入れの際のトラブルや記録の欠落などを防止できる。
 管理機関を設ければ、管理機関による“はじめて立入る前”に実施する教育訓練の共通事項や放射線健康診断の実施代行も可能になる。代行業務は、自らの事業所内に放射線管理組織を持たない中小企業が、他事業所の放射線管理区域内で役務に従事する際有用であり、安全を損なうことなく、多くの企業に仕事を得る機会を広げる効果もある。役務の発注者側にとっては、競争原理による経費の削減も期待できる。同様に、放射線管理組織を持たない機関に所属する研究者が、共同利用の放射線施設を利用する場合にも、管理機関による教育訓練等の代行があれば、容易に放射線業務従事者として登録でき、施設の利用拡大、有効利用に繋がる。
 管理機関としては、既に原子力労働者を対象とする中央登録制度のような例があるが、IT技術の発達した今日では、あのように人手と費用のかさむ組織は必要ない。具体的には、個人線量測定機関などの中で一定条件を満たすものを“認定事業者”に指定することも可能である。個人線量測定機関は、放射線業務従事者の被曝データを相互に参照できる体制にあり、管理機関としての基本的な体制は既に整っていると思われる。

5.3 遮蔽計算マニュアルと異なる指導例
 遮蔽計算実務マニュアル2000及びその追補事項では、β放出核種の制動X線の線量計算において保管廃棄設備のターゲットをアクリルで問題ないとしている。しかしながら、「ターゲットはドラム缶の鉄(Z=26)としドラム缶の遮蔽は見込まないこと」との指導があった。また、遮蔽計算マニュアルでは保管廃棄設備内の人が常時立ち入る場所の評価距離を1mとしたが、マニュアルとは異なる0.5mで行うように指導があった。